■病院の器具等の卸業・リース業から、まったく新しい分野へ進出
私たちは1984年に創業し、これまで医療材料の卸売・小売、医療機器や車両のリースなどを主な事業としてきました。
医療材料とは例えば注射器のシリンジやチューブなど、医療に必要な器具などのことです。メインの取引先は、協力医療機関でもある愛知県大口町のさくら総合病院。それ以外にも診療所に卸したり、患者さんに販売したりしています。

また、リースを行っているのはCTやMRI、顕微鏡などの医療機器や、救急車、患者さん送迎用のバンなどです。医療機器は高額なので、病院で購入するよりもリースにする方がランニングコストが抑えられます。

これまでこうした病院内での事業を行ってきましたが、近年、医療材料メーカーには卸事業者を通さず、ECなどで患者さんに直接販売する会社も増えています。
また今後の経営を見据え、病院だけに頼るのではなく、一企業として自立できるよう新規事業も必要だと考えるようになりました。

そんな中で2024年12月にスタートさせたのが、東海地域初のホテル宿泊型産後ケアサービス「milieu（ミリュー）」です。

ミリューは愛知県犬山市にある「ホテルミュースタイル犬山エクスペリエンス」の一角（4室）で運営しています。

サービスの主な対象は、産後の母親と4ヶ月未満で寝返りを打つ前の赤ちゃんで、父親や上の子も一緒に宿泊できます。滞在中は24時間、助産師や保育士に赤ちゃんを預けて親が休むことができ、産後の体や育児に関する不安を相談することもできます。子育てに関するセミナーや、アロマ、ニューボーンフォトなどのサービスも受けられます。

■外部人材とともにリサーチ、協業相手に出会う
ミリューは産後ケアホテルの一つです。産後ケアホテルとは、ホテルならではのホスピタリティのもとで、産後の母親が安心して心身を回復させながら、赤ちゃんと過ごせる施設のことです。専門の宿泊施設もあれば、一般のホテルの一角を産後ケア施設にしている場合もあります。
首都圏や関西には少しずつ増えていますが、これまで東海地域にはありませんでした。

過去には病院の要望などを受けて、別の新規事業を行ったことがあったのですが、なかなかうまくいきませんでした。
そんな中、新規事業担当者自身が出産後、心身ともに大変なときに、京都の産後ケアホテルでリラックスするという経験をしました。こうしたことを東海地域のママたちが、遠くまで行かなくても経験できるといいと思ったことが、産後ケアホテル事業を立ち上げるきっかけになりました。

最初は社長などから事業実施を反対され、まずは新規事業推進に長けた外部のプロジェクトマネージャーと、新規事業として成り立つのか調べることになりました。
産後ケアホテルの需要などのリサーチを進める中で、市場規模が小さいので厳しい面がある一方、国としても産後ケアに力を入れ始めていて、盛り上がる気配もあることがわかってきたのです。

事業実施を決め、ホテルの一角での開業を目指しましたが、実は産後ケアホテルは人件費がかさむため利益率が低く、ホテル側に大きなメリットを提供できるわけではありません。協力してもらえるホテルはなかなか見つかりませんでした。

探す中で、ホテルを経営する子会社を持つ名古屋鉄道に、新規事業開発に取り組む部署があることを知りました。ここなら、沿線住民の生活がより豊かになるようなまちづくりを進める名古屋鉄道の、中長期ブランドづくりという視点から相談ができるのではないかと、こちらから問い合わせました。
名古屋鉄道ではちょうど、オープンイノベーションを推進し、スタートアップ企業と協働しようとしているところでもありました。こうしたことから、名古屋鉄道グループのホテルの一角でミリューをスタートすることになったのです。

オープンに向けての準備も、その後も、私たちにとっては初めてのことばかりでした。多くの助産師や保育士を雇い、コミュニケーションを取るのも大変でしたが、募集には多くのかたから反響がありました。

ミリューは2024年11月にプレオープン、12月にグランドオープンしました。お客様からは「寝られた」「助産師さんにつきっきりで教えてもらえて勉強になった」「上の子との時間を取ることができた」などの声をいただいています。
お客様は半数以上がパートナーと一緒に宿泊しています。犬山の城下町や飲食店では、皆さんが旅行気分で家族の時間を楽しんでいるようです。「城下町の人から暖かく声をかけてもらってうれしかった」という声もありました。

■WEBやチラシで一般の方とのタッチポイントを増やしたい
お客様の反応などから、著名人のSNSや韓国ドラマなどの影響で、産後ケアホテルの認知度は想像以上に高まっていることがわかってきています。
ただ、それが愛知県にあることはまだ知られていません。今後はWEBでミリューを見つけやすくしたり、産院にチラシを置いたりして、一般の方との接点を増やしていきたいと考えています。

また、地域の方との連携にも力を入れていきたいです。今もお客様には、積極的に犬山城下町などを案内しています。犬山城下町を散策して旅行気分を味わえ、地域ぐるみで産後の家族を温かく迎え入れることができれば、産後の疲れ、悩み、迷いを抱えた母親が、出産・自分自身を肯定することができ、前向きに育児を行う一助になるかもしれません。

私たちは今、社員全員が女性です。それぞれの過去の経験から、女性の悩みを理解できることを生かして、女性の笑顔、ママたちの笑顔を広げていきたいと考えています。