私たちがいる三重県尾鷲市は人口17000人の小さな町。60年前に比べ人口が半分になり高齢化率は45％、漁業や林業といった基幹産業も衰退の一途をたどっている、いわゆる地方の典型です。
そして昨年、尾鷲で約60年間稼働した大きな火力発電所が撤去されました。最盛期には発電所関連で3000人以上が働いていたと言われ、この町の地域経済を支えた存在でした。
私たちは、火力発電所が撤去されるまで、そこで鉄関連の仕事をしていました。発電所の撤去を機に迫られた選択は、尾鷲を離れて鉄の仕事を続けるか、仕事はないが尾鷲に残るか。私たちは尾鷲に残ることを決断しました。
火力発電所が撤退し、街からは大きな産業が消えた尾鷲市。正直、ここから出て行った方が楽でした。しかしながら、尾鷲に残ったのには理由があります。

それは、幼少期を過ごした周辺の地区にまだ素晴らしい自然が残っていたから。

60年ほど前、本プロジェクトの舞台となる尾鷲市向井地区は尾鷲唯一の畑作地帯として、段々畑の甘夏農家をはじめ、たくさんの人たちが朝から農作業をし、その横の畦道を子どもが走り回る風景が広がっていました。
今も豊かな自然が残るこの土地で、あの頃のような風景をこの時代に再び見たい。自分たちの手で再び地を拓き、自然を守り未来へ繋ぐ仕事をしよう。

「鉄」から「土」へ。私たちは農業を始めることにしました。

とはいえ全くの異業種で言葉の通り0からのスタート。しかもフィールドは長く耕作放棄地となっている場所。
うまくいかないことも沢山ありましたが、20年7月にようやく向井の土地で観光農園『おわせむかい農園』をオープンすることができました。

ブルーベリーや、フィンガーライム、オリーブ、国産アボカドを栽培したり、地元野菜を使った漬物や加工品もつくっています。

尾鷲という少子高齢化、主要産業含めて衰退している町、すなわち課題の最先端地域で、事業を作っていくこと、そのものが今挑戦していることです。
▶観光農園づくり
・ブルーベリー、トウモロコシ、サツマイモなど体験ができる農園空間を作り、地域の家族連れや子供たちに農・食に触れてもらう経験を提供しています。初めて作る農作物もあるため毎度試行錯誤しながら進めています。

▶農作物づくり
・アボカド、フィンガーライム、オリーブ、大根など耕作放棄地の開墾から始めて、栽培しています。
・尾鷲市向井地区でのみ栽培されている「虎の尾」という青トウガラシの栽培や、この地域で食べられている伝統料理の加工製造も行っています。高齢化が進み、栽培が難しくなってしまった方が土地を貸してくださったり、新たに栽培に挑戦しようとしている私たちにノウハウを教えてくださったりと、地域の味を守り、伝えていくことも行っています。

▶居場所作り
・尾鷲市向井地区で育った子供たちの放課後の居場所作りにも取り組み始めています。自然豊かな土地の中を子供が走り回る。そんな風景を取り戻したいと思っています。そのために自然を楽しめる場所の整備や、施設づくりにも着手しています。