老舗水回り機器メーカーが、これまでにない新商品開発に挑戦! 一つひとつ縁をつないで、グッドデザイン賞も - 東海ヒトシゴト図鑑

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老舗水回り機器メーカーが、これまでにない新商品開発に挑戦! 一つひとつ縁をつないで、グッドデザイン賞も

老舗水回り機器メーカーが、これまでにない新商品開発に挑戦! 一つひとつ縁をつないで、グッドデザイン賞も

岐阜県山県市は、実は水栓バルブの発祥地とも言われ、水栓バルブ関連企業約100社が集積している地域です。ミズタニバルブ工業株式会社もその一社。水栓金具や蛇口をはじめとした水回り機器の開発から設計、製造、販売までを行っています。

1959年創業、75年以上の歴史を持つ同社が2022年に取り組んだ新商品が、自動水栓手洗器「AWAMIST(アワミスト)」です。

取材時には代表取締役社長の水谷真也さんから、その開発時のことを生き生きとした口調でお話しいただきました。企業図鑑にはかなり圧縮した形でしか載せられなかったそのストーリーを、ここで皆さんにもご紹介します。

水谷真也さん:
私たちは「人を大切にする経営」を標榜しています。このことを教えてくれたのが、今もお付き合いしている、東京のA会計事務所です。

そのA社のイベントに参加したときに、Bさんというコンサルタントのセミナーを聞いて「これは間違いないだろう」と思ったのです。すぐにBさんに電話して「大きい会社と同じことをやりたくないんです。うちの強みを生かした、差別化された商品を作りたいんです。手伝ってもらえませんか」とお願いしました。そうしたら「いいですよ」と言ってもらえたのです。そこから、Bさんの会社(C社)との商品開発が始まりました。

その時考えていたのは、これまではライバル会社と同じものをいかに安く作るかばかり考えていたので、それとは違う新しいものづくりをしたいこと、マーケティング的な発想を取り込んで、これまでと違うターゲット、市場を狙いたいということだけでした。

そこから商品開発を進める上では、C社と私一人でも絶対にやるつもりでした。でも、みんなにもちょっと聞いてみようと思ったのです。営業と商品開発のメンバーに、やりたい人は手を挙げてほしい、誰もいなければ私一人でやると話しました。そうしたら、全員がやりたいと手を挙げてくれたのです。さすがに全員で進めるのは難しいので、営業から2名、商品開発から2名と私の5名でスタートしました。

C社とは毎月1回、2時間のミーティングをしていましたが、それでは当然終わらない。毎週社内会議を開き、5〜6時間かかることもありました。
ターゲットを決めた後は、とにかく言葉づくり、コンセプトづくりを徹底して行っていきます。ターゲットの不満や不安を列記し、それを言語化していくのです。助詞は「は」なのか「が」なのか、といったところまで、5人でふうふう言いながら決めていきました。

それで言葉のコンセプトをつくったら、やっとプロダクトデザインに入っていきます。そこで最後に2案が残りました。今のアワミストの前進となる手洗い器と、私たちが注力してきたエクステリア分野の商品です。
さまざまな角度から点数づけをしてもエクステリアの方が合計点が高いし、私たちも力を入れているし、エクステリアではないかと考えました。しかしC社の方が「いやいや水谷さん、手洗い器でしょう、決まってますよ」と。その鶴の一声で、開発方向が決まりました。そのときはなぜかはわからなかったけれど、一生懸命ついていくことにしたのです。

いよいよ本格的にプロダクトデザインをすることになったとき「グッドデザイン賞を取りに行くに決まっとるやろ」という声がチームメンバーから上がりました。
どうやったらグッドデザイン賞が取れるのか? 「昨年のグッドデザイン賞の大賞取った人に頼めばいいんや」と。
それは誰? と調べたら、大阪の会社の方でした。この人にデザインしてもらう、と決めて、そこに電話して「かくかくしかじか、近々デザインしてほしい」と話すと、来なさい来なさいと言ってもらいました。それで私一人で行って、それまでに決められていたコンセプトや商品の設計書を見せながら話したら、「わかりました、やらせてください」と言ってもらえたのです。

そうしたら、一流のデザイナーの方は、コンセプトの言葉だけで形を作るのです。すごくないですか。こういうときにこういう不具合が起こらないように、などと打ち合わせただけで「この形ですけど、いかがですか」と。
大きさだけは決めてくださいと言われたので、自分たちで水のはね方などの実験をして、高さや横幅を決めました。それを渡したらもうデザイン案ができてきたのです。

それで「これ、どうやって作る?」という話になりました。私たちではできない板金加工を他社にお願いしなければならないので、みんなでそれができる会社をインターネットで探して。D県にできそうなところがあるとなれば、連絡して、行ってみて。そこではできないとわかればまた探して、E県にあるぞ、F県にあるぞと。あっち行ったりこっち行ったりして、ここならできそうという会社を見つけました。

さらに、商品下部のキャビネットは木製です。私たちは蛇口はわかるけれど木工はやったことがない。また、どこや、どこやと検索して探しました。


それだけ突っ込んだ開発をして、思い入れの強い商品ができました。

グッドデザイン賞は、大賞ではないけれど受賞できました。これまで、海外も合わせて5つの賞を受賞しています。

新型コロナの影響が続き、感染症対策へのニーズが高まる中で発売されたAWAMIST。現在も導入が続くだけではなく、AWAMISTをきっかけに既存商品の紹介につながったり、これまでにない領域で製造の問い合わせをもらうようにもなったそうです。

老舗企業の新たな挑戦。これまでの人脈ばかりに頼るのではなく、理想を実現するのにもっとも適した協力企業を、一つひとつ手探りで見つけていく姿が強く印象に残りました。強い思いとそれに伴う行動が相手に伝わり、そこに既存事業や会社の経営全体からくる信頼も加わって、新しいご縁がつながっているように感じます。
また、ミズタニバルブ工業では商品開発メンバーに担当分野があるわけではなく、1商品1担当制。わからなければ人に聞きながらつくっていくやり方が普段から浸透していることも、新商品を完成させる力につながったようです。
地域の老舗企業で働く中で、このように新たな挑戦ができる機会もあるということにも気付かされます。

なぜ同社は、ここまでの力を新商品開発に注いだのか? その答えも印象的だったので、最後にご紹介したいと思います。それは、同社の経営理念の中にある「第一にメンバーの幸せを追求し」という言葉と結びついていました。

水谷真也さん:
メンバーとその家族の幸せを実現しようとすると、事業構造を変える必要が出てくるのです。
そのためには、会社の利益を増やしていかないといけません。幸せを実現するというなら、ずっと同じ幸せではなくて、ぐっと上げていきたいのです。
年に1回、経営計画書をリニューアルして、中期事業計画を立てます。そこで毎年、全然利益が足りないと気づくのです。こんな計画で何がメンバーの幸せじゃ、と。
あかん、じゃあもう一個新商品を入れないと。それって何や。そんなことを毎年、真剣に考えています。メンバーとその家族の幸せを実現すると決めていなければ、そんなことは絶対考えないですね。