2024年12月02日(月)
【ヒト図鑑ストーリー特集】転職して入社、初めての仕事に次々と挑戦……10年かけて会社の理念と自分の理想をつなげる
2024年12月02日(月)
ヒト図鑑には、さまざまなヒトの人生における選択が掲載されています。
この特集では、その選択の背景や、選択に至る思考回路を掘り下げたり、選択時の指標を明らかにしたりすることで、読者の皆さんが選択するときの判断材料としていただきたいと考えています。
今回のストーリーの主役……
アルファフードスタッフ株式会社 上田誠さん
上田誠さんは、名古屋市でオーガニックをはじめとする食品の卸・販売等を行うアルファフードスタッフ株式会社で、小売商品の営業と、商品開発や広報等を兼任しています。
どこにいても上司や周りから頼りにされ、これまでやったことのない業務も次々と任されて真摯に取り組む上田さんですが、実は「自由に生きたい」「自分の行動を選択できない環境が苦手」という価値観も持ち続けています。入社10年を迎えた今、どんな思いとモチベーションで、同社で働き続けているのでしょうか。
営業室と商品室を兼任。フレックスタイムで子育てにもコミット
アルファフードスタッフ株式会社の営業には、オーガニック素材を加工食品の原料として工場などに卸す部門と、パック入りの商品を家庭用スーパーなどに卸す部門があり、上田さんは入社以来後者の部門に携わっています。
そして商品室を兼任し、商品開発や広報、ファンマーケティングなども行っています。営業の仕事は少しずつ後任に引き継いでいて、2024年12月からは商品室に専念する予定です。
小学生のお子さんがいる上田さん。2024年4月からフレックスタイムを使って、定時を7時から15時30分としています。
普通に働いていると、どうしても帰りが遅くなって、一緒に宿題もできません。子どもが小さいうちはそばにいたい、子育てもちゃんとしたいと、思い切って会社に相談しました。
大手企業のように制度や手当が整っているわけではありませんが、子育て世代の社員が少なくないこともあって、職場に理解があるので助かっています。
上田さん以外にも、社内には子育て中で時短勤務の人が。授業参観や子どもの通院などでは、時間休の制度を利用しています。
企業選びの軸は食への関心、決め手は「人」
大学時代は生物科で学んでいた上田さん。生き物のほかに好きだったのが食べ物です。
子どものころから食べたことのないものを食べるのが好きで、電車で出かけてその土地のものを食べることもありました。また、カップラーメンを食べるときには一手間加えて、野菜やガーリック、スパイスなどを入れたものを試すのが好きでした。
当時、そもそも働くことにあまりモチベーションが高くはなかったです。ただ、食にはちょっとこだわりがあり、働くなら食品会社かなと思いました。
大学卒業後に上田さんが選んだのは、ある食品メーカーです。生産管理の部署に配属されて少し経つと、その働きぶりが経営者の目に止まりました。上田さんは期待を受けて、経理、企画、販売、秘書など、さまざまな部署に短期間ずつ派遣されることになったのです。
商品をつくるには何が必要か、流通するには誰が必要かなど、モノ・ヒト・カネの流れを学ぶことができて、振り返るといい経験になりました。
とはいえ、次々と新しいことを覚える負担は小さくありません。さらに周りの人の退職が相次ぐ中で、会社の将来への不安も感じ、上田さんは退職を選びました。
次に入社したのは、自治体の福祉に関するコンサルティングの会社です。前職の生産管理で行っていた、数字の分析が活かせる仕事でした。
やりがいを感じていましたが、家に帰れない日もあるほどの忙しさ。ライフプランも見えなくなり、妻からの後押しもあって転職を決意しました。
2度目の転職活動では、それまで行っていた分析の仕事と、食に関わる仕事、二つの軸から転職先を考えました。
2社目で行っていた分析は好きだったのですが、正直なところ、福祉の分野は食と比べると関心が薄かったです。3社目は食に関する仕事を選択肢に入れたいと思いました。
それまでの経験から、業績がある程度安定していることや、労働環境も気になるポイントでした。
そんなときに知ったのがアルファフードスタッフです。上田さんは会社概要を調べ、夜中に会社の近くへ行って様子を伺ってみることに。深夜まで社員が残業している様子はありませんでした。
実は当時、浅井紀洋現社長が入社したばかりというタイミング。
面接でお会いした現社長から「社長の思い一つで社員に指示するのではなく、一緒に会社をつくっていく」「社員の強みを生かす」という言葉がありました。これは一緒に働かせていただきたいという気持ちと、安心できる環境だろうなという気持ちが、入社の決め手になりました。
初めての業務に次々と挑戦。チームを支える存在に
2014年にアルファフードスタッフに入社。大好きな食に関わる仕事とはいえ、職種はこれまでに経験したことのない「営業」でした。やってみて、どう感じたのでしょうか。
「意外とできるな」と思いました。やる前は、絶対向いていないだろうと思っていたんですけど。
お話がうまいとか、お客様に気に入られるといったスキルも営業としては必要だと思います。
一方で私はどちらかというと、話を聞くのが好きだし得意で、そうした力も営業には必要です。それを発揮できた場面もあり、徐々にお客様との関係ができてきました。
最初は、いつもお客様にヘコヘコするのかな、会食などでお客様を持ち上げないといけないのかなという不安もありました。
やってみて、お客様のことが好きだったり、お客様にも気に入ってもらえたりしたら、自然とそういう関係ができるものだなと納得しています。はたから見ると、ただヘコヘコしているように映るかもしれませんが。
アルファフードスタッフでは、営業担当者が営業以外にも、レシピ開発や在庫管理などの業務をそれぞれ少しずつ受け持っています。上田さんが受け持ったのが「Biokashi」というブランドのプロジェクトチームです。
当時の「Biokashi」には、ドライフルーツなどオーガニックの素材をそのまま小分けしてパック詰めしたものがラインナップされていました。
しかし、現社長がオーガニックのお菓子のニーズを感じたことから、他社の工場と協力して、自社でそれを開発することが決まったところでした。
商品開発は現社長と上司が行い、上田さんは主にホームページやSNSを担当することに。個人的にもSNSをやっていなかった上田さんにとって、まったく初めての経験です。社内にも詳しい人がいないだけでなく、発信を重視する文化もありませんでした。
そんな中、上田さんはマーケティングに強い外部パートナーなどに助けられながら、少しずつ施策を試していきました。フォトコンテストを行ったり、ブランドのターゲットとなるような人にインスタグラムからコンタクトを取って、商品を試してもらったり。
自分自身、そんなに周りに発信したい性格でもなかったので、最初は「できるんだろうか」と思っていました。
ただやってみて、フォロワーや「いいね」などの数字を知りました。何かアクションをすると数字が変わる、ということは好きなので、そういった観点から取り組んで、少しずつ学んでいきました。
その後、上司がプロジェクトを外れ、上田さんは現社長とともに商品開発にも携わるようになりました。商品開発も初めての経験です。
商品開発でのもっとも大きな役割は「どんなお客さんに届けたいから、どんな商品で、どんな包材にするか」などと企画すること。
さらにパッケージづくりでは、デザイン会社のパートナーと、表現の一つひとつに至るまで考えていきました。
ターゲットとなる人に「あなたが買うべき商品なんですよ」と、なるべく短時間で伝えられるようなパッケージを考えました。
そのためには商品名も大切。また、パッケージのどこに「オーガニック」、どこに「有機」と書くのかといった言葉選びも重要です。
例えば、上田さんの開発した商品の一つが「USUKAKE」。商品名だけで、ドライフルーツにチョコレートを薄くかけているという、お菓子の特徴が伝わってきます。
2024年、常務取締役だった現社長が現職に就任。Biokashiチームには後輩の一人が仲間入りしました。
社長が安心して、Biokashiからある程度目を離していただけるように、しっかりとブランドを支えていける存在になりたいと思っています。
オーガニックを広めることは、自分の信条にもつながる
中学のころから環境問題に興味があり、入社前にオーガニックについて「いいもの」という認識はあったという上田さん。入社後に深く学び、オーガニックへの思いを強くしました。
これは絶対に、地球にとっても人にとっても、少なくともマイナスになるようなものではないとわかりました。オーガニックのお菓子や食品が当たり前になってほしい気持ちが強くあります。
オーガニックの事業はまだまだ日本でも少なく、変化の途中。これからいかようにもなります。
その最先端プレーヤーとして、大げさにいえば日本のオーガニックの歴史をつくるのに携われているということが、自分にとって一番の喜びで、自分の力になっています。
ただ、「Biokashiがだめならもうだめだ」と思っているわけではないと上田さんは話します。
私には、何でも俯瞰的に見ているところがあります。オーガニックが広がって、人にも環境にも負担がかからないような食の循環ができればと、今はBiokashiなどを一生懸命やっていますが、Biokashiがそのために必要でなくなれば、また次のことをやっても面白い。一つに執着するのではなく、いろいろな選択肢があると考えています。
「いろいろな選択肢がある」というのは、実は上田さんがずっと大切にしてきた「自由に生きる」という価値観にもつながる考え方です。
下手でもダメでも無駄でもいいので、何でも自分で決めてまず自分でやってみたい気持ちが強いです。また、自分の行動が自由に選択できない環境がとても苦手です。
そんな上田さんは、「自由に生きる」ことを、アルファフードスタッフで実現できているといいます。
商品を手にとってくださる方にとって、不自由なく自分の選択ができる社会になることは、この会社の方針につながっているだけではなく、私の信条にもつながっている、自分の気持ちと一致していると、だんだん感じるようになりました。
入社から10年かけて、自分の「自由に生きる」という考えと会社の方針を照らし合わせながら考えてきました。
今では、自分の思うことが、会社の方針に反することではないだろうなという自信があります。会社で起こることは、自分の自由を妨げるものではないし、会社で自分の意志にそぐわないことをやることはないのです。ありがたいことだと思います。
また、社長と目線が合っていて、会社の方針に沿うことなら、「これをやりたい」と社長に伝えれば「やってみようよ」と言われることが多いです。だから、何かやりたいと思ったときにはできます。具体的な答えをもらえるわけではないので、自分で考える必要はありますが。
アルファフードスタッフでの仕事は、オーガニックを広め、商品を手にする人が自由に選択できる社会につながる。それは会社に貢献できることであるだけでなく、上田さんが大切にしている「自由に生きる」ことを実現することにもつながるのです。そして、実際の業務のやり方においても、「自分で決めて自分でやってみたい」という思いが満たされています。
最初は嫌な仕事もありました。今も当然、毎日ずっと笑顔で暮らしているわけではありませんが、少しずつここまで来られました。
私は学生のころ、働くことにそんなに前向きではありませんでした。でも、働いたらとっても楽しいし、やっているうちにどんどんやりがいが湧いてきています。
お話を伺う中で、上田さんはきっとどこにいても、上の人や周りから頼りにされる方なのだろうなと感じました。
ただ1社目では、経営者から頼りにされて次々と課題を与えられる中で、つらくなってしまったようです。今の会社でも頼りにされている感じは伺えますが、俯瞰的な視点と情熱をもって取り組み続けています。
そこには浅井社長の人柄や取り組み、オーガニックへの思いといった理由ももちろんありますが、それだけではないと感じます。
10年をかけてじっくりと、上田さん自身の価値観と、会社の理念との共通点を見出し、会社に貢献することが自分の理想を実現することでもあると納得しながら働いていることが、情熱を持って働き続けることにつながっているのではないでしょうか。
最後に上田さんに、これから挑戦したいことを伺うと、やはり会社の理念とも、ご自身の価値観ともつながる答えが返ってきました。
今のBiokashiにはドライフルーツやナッツ、お菓子のシリーズがあります。ただ食品のカテゴリーで言えば、飲み物などもっと多様にあるので、その選択肢を増やしていきたいですね。市場に求められるものに応じて、さらに新しいブランドに作り上げていきたいと思います。
7:00 出社、当日の作業整理
8:30 商品室ミーティング
10:00 製造会議
10:30 商品勉強会
11:00 昼休み
12:00 商品室作業;ブランドリニューアルに伴う商品ラインナップの整理案作成
14:00 営業作業;価格改定の見積作成・連絡
15:30 商談準備
16:30 退社 子どもの迎えに行き、家までゆっくり帰ります。